【MMT(現代貨幣理論)入門】貨幣の正体 ~商品貨幣論・信用貨幣論とは何か~

MMT(現代貨幣理論)

アメリカを中心に発展した経済理論、MMT(現代貨幣理論)。日本でもメディアに取り上げられ、多くの議論を巻き起こしています。しかし、そこで繰り広げられる議論のほとんどは、MMTについての理解が不十分なまま行われており、支離滅裂なものとなっているのが現状です。

この記事では、MMTの貨幣論に焦点を当て、貨幣はどのように誕生したのかを、一般的な説明と比較しながら、なるべく簡単に分かりやすく解説していきます。

MMTについての正しい知識を身に付けて、建設的な議論ができるようになりましょう。

貨幣論の歴史

貨幣はどのようにして生まれたのでしょうか?一般的な説明としてよく挙げられるのが、「物々交換の不便さを解消するために生まれた」というものです。

経済学の教科書として、世界中で読まれている『マンキュー マクロ経済学(第四版)Ⅰ 入門編』や、経済学の父と言われる、アダム・スミスの著書『国富論』にも、物々交換の発展形として、取引をよりスムーズに行うために貨幣が生まれた、と記述されています。

貨幣は物々交換の不便さを解消するために生まれた、こんな簡潔に言われて理解できる人は少ないでしょう。それでは、貨幣はどのようにして生まれたのか、具体的に見ていきます。

私たち人間が生きていくためには、様々なモノを必要とします。食料品や飲料水、衣料品や日用品、電気・ガス・水道、住宅施設など、ひとつひとつ例を挙げていくと切りがありません。

現代人ほどではありませんが、太古の昔に生きていた人間も同じで、生活に必要なものを1人で生産するのは骨の折れる作業で、効率の悪いものでした。

そこで登場するのが「分業」という考え方です。

パン屋はパンを生産し、農家は農作物を生産する。

このように特定の生産に特化することで、効率的に生産できるようになります。こうして分業が進むと、各生産者は、自分が必要とする分を超えた余剰分を、他の生産者が生産したモノと交換するようになります。

皆さんの良く知っている、物々交換経済の始まりです。

しかし、必ずしもお互いがお互いの欲しいモノを持っているとは限りません。自分が生産したモノを相手が欲し、かつ相手の生産したモノが自分の需要を満たすことなど、ほとんどありません。非常に不便ですね。

この不便さを解消するための交換媒体として生まれたのが貨幣なのです。

最初は、砂糖や塩が貨幣として利用され、やがて、金、銀など貴金属になりました。しかし、いちいち貴金属の重さを量るのは面倒ですよね。その手間を省くために生まれたのが、重さや価値が保証された硬貨(貨幣)というわけです。

以上のような貨幣の誕生プロセスについて、私たちは違和感なく受け入れることができます。しかし、この貨幣誕生プロセスは本当に正しいのでしょうか。

ここまで長々と解説しておいて大変恐縮ですが、実は、重大な問題点を抱えているのです…。

商品貨幣論の問題点

前項で紹介した様々な貨幣には、ある共通点がありました。それは素材として価値を持つという点です。砂糖、塩、金、銀のどれも、それ自体に価値があるものですよね。

このように、貨幣の起源や価値を、素材の持つ価値に求める考え方を「商品貨幣論」と言います。もっと簡単に言うと、物々交換の延長で貨幣が生まれたという考え方です。

一見正しく思えるこの商品貨幣論。いったいどこがおかしいのでしょうか、見ていきましょう。

論理的に破綻している

1971年に金と米ドルの交換が廃止されて以降、素材価値のほとんどない紙切れが、紙幣(貨幣)として流通しています。この現象を説明する理由としてよく挙げられるのが、「みんなが貨幣としての価値を認めているから」という説明です。

…よく考えてみてください。これって説明になっているのでしょうか。実はこれ、循環論法と言って、論理的な説明になっていないのです。

循環論法とは、証明すべき内容を前提にして論証することです。

例えば、世の中にAさん、Bさん、Cさんの3人しかいないとします。上記の説明では、「Aさんが貨幣の価値を認めているのは、Bさんも価値を認めるから」となり、「Bさんが価値を認めるのは、Cさんも認めているから」となります。

しかしこの時、Cさんが貨幣の価値を認める根拠を説明できません。仮に「Cさんが貨幣の価値を認めるのは、Aさんも認めているから」とすると、循環論法に陥ってしまいます。

そもそも物々交換経済は存在しなかった

実は、物々交換経済の実在を示す歴史的な証拠は、未だに発見されていません。

「いやいや、物々交換は行われていただろう」と、こう思う方もいると思います。日本でも、長野県の和田峠や伊豆七島の神津島を原産とする黒曜石が、全国各地で出土しており、遠隔地との交易を示す証拠となっています。

しかし、こうした物々交換は、お互いの需要を満たす経済的な取引ではなく、絆や結束を深める社会的な行為であると、MMTの提唱者であるランダル・レイは指摘しています。

貴金属硬貨も不便だった

硬貨は取引の手間を省くために生まれた、と前項で述べました。しかし、実際のところ、取引の手間を省けたわけではないようです。

中世のフランスでは、国王以外の主体が独自に硬貨を発行し、全部で80種類にも及ぶ数になっていました。また、それら硬貨は重さもバラバラで、素材価値を超えた貨幣価値で流通していたため、商品貨幣論とは明らかに矛盾しています。

MMTは信用貨幣論

では、MMTの貨幣論はどういったものなのでしょうか。結論から言うと、貨幣を債務と債券(貸し借り)の記録だと考えるのがMMTの貨幣論です。具体的に見ていきましょう。

例えば、AさんがBさんから、お米を10キロ借りるとします。この時、AさんはBさんに、「AはBにお米10キロの借りがある」と記された借用証書を渡します。続いてBさんがCさんから、お米を10キロ購入し、代金としてBさんの保有しているAさんの借用証書をCさんに渡しました。

Aさんのお米10キロという債務(借り)の債権者(貸しがある人)が、BさんからCさんに移ったのです。

借用証書とは、モノの貸し借りを記録した証明書のことです。

…気づきましたか? Aさんの債務を記録した借用証書(Bさん、Cさんにとっては債権の記録)が、貨幣として利用されています。もちろん、借用証書そのものに価値はありません。素材ではなく、債務と債権の記録が、貨幣価値を裏付けているのです。

普段、私たちが貨幣として利用している千円札などの現金紙幣も、日本銀行の債務です。私たちがコンビニで買い物をする際、日本銀行に対する債権で、コンビニに対する債務を返済しているのです。

まだ信じられないという方は日本銀行のバランスシートをご覧ください。

2021年9月末時点、日本銀行バランスシート(兆円)

出典:http://mtdata.jp/data_79.html#21BS

左側の借方が資産(債権)で、右側の貸方が負債(債務)です。私たちの債権である現金紙幣が、日銀にとっては債務であると分かります。

また、貨幣の一形態である預金も私たちの債権になり、銀行にとっては債務となります。預金についてもMMTでは重要な概念として取り扱われています。以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。

【MMT(現代貨幣理論)入門】預金の正体 ~信用創造によって貨幣は創出される~
皆さんは預金について正しく理解していますか?この記事では、一般的な預金についての説明は誤りであることを証明すると共に、正しい預金発生メカニズムについて解説していきます。

以上のような、貨幣価値を貸借関係に求め、借用証書を貨幣と考える貨幣論を「信用貨幣論」と言います。MMTは、この信用貨幣論に立脚した経済理論の1つなのです。

まとめ

  • 商品貨幣論とは、貨幣が誕生した理由を、物々交換時に生じる手間を解消するためとし、貨幣価値は、素材の持つ内在的価値によって決まると考える貨幣論
  • 商品貨幣論は、論理性・立証性・機能性の点で、重大な欠陥を抱えており、貨幣の説明として妥当とは言えない
  • 信用貨幣論とは、借用証書を貨幣とし、貨幣価値は貸借関係に決まると考える貨幣論

参考文献

  • 島倉原『MMTとは何か 日本を救う反緊縮理論』、角川新書、2019年
  • 島原原『MMT講義ノート 貨幣の起源、主権国家の原点とは何か』、白水社、2022年
  • 三橋貴明『知識ゼロからわかるMMT(現代貨幣理論)入門』、経営科学出版、2019年
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